2025年5月29日木曜日

EVEにやってきた謎の新コンテンツ:Freelance Job

 今年夏のExpansion: Legionの目玉コンテンツFreelance Job。誰もが登場を予想しなかった謎機能は、誰もが発表と同時に予想したやり方で使われるようになった。つまり詐欺である。


これは現在のハイセクで広告されているなかで恐らく最も参加者が多いFreelance Job。内容はハイセクの特定のシステムでNPCを狩ると1killにつき20k ISK差し上げますというもの。どう考えても微々たるものでわざわざやる価値があるとは思えないのだが、HekとDodixieという地方都市で出しているので入れ喰いになっている。Jitaだったらこの条件では見向きもされないだろう。

同時にセットで出されているのが採掘のFreelance Job。こちらは何掘ってもいいけど1ユニットにつき10ISK差し上げます。掘った鉱石は自分のものにして良し。という内容。10ISKってショボいように見えて、Veldsparが1Unitで10ISKなのでVeldspar採掘の時給が倍ということになる。ヤバい。でもこの美味しい話には理由がある。

作業場所として指定されているClortelerは飛び地ハイセクなのだ。しかも経路が1通りでローセクのシステムが2つ連続していてゲートキャンプするのに都合がいい。こんなの引っ掛かる奴居るのかとも思ったが、実際zkillを見るとものすごい勢いでカモが収穫されている。採掘艦はともかくラッティング艦がわざわざ行って死んでるのはナンセンスだが、実際そうなっているから仕方ない。

しかしこれは序の口である。カプセラの愚かさを甘く見てはいけない。飛び地ハイセクだから騙されたとかいうレベルですらなく、正々堂々と超絶危険なローセクシステムを作業場所として指定しても来る奴は来る。

Ahbazonでラッティングしろという無茶な依頼に応じた勇者が145人も居た


AhbazonでKerniteを採掘しろという依頼に応じたのは42人だけだが、なんと20万Unit以上ものKerniteが採掘された。Retrieverで8杯分くらい。どうやったんだよ

ちなみに私がメンテ明け直後に適当に作ったTama採掘ミッションは延べ162人が請け負ったが未だに1UnitのOmberも採掘されていない。私の知る限りではTamaにOmberは湧かないハズだけども、もしかしたら何かニッチな探検サイトやミッション地に転がってたりするかもしれない。


一応、詐欺ではないまともな使われ方も一部ではされている。主にFW勢が特に攻勢を掛けたい重点システムの攻略に補助金を出している。FW参加者としては請けない理由も特にないので参加者が多く、Jitaで広告されているJobの中で最も参加者が多いのはカルダリ義勇軍のJobだった。各国義勇軍に同様のJobがあり、各々の拠点システムで広告しているようだ。

何故か対象者にキャラ作成からの日数で条件を掛けることができるため、初心者支援的な内容のJobも登場している。上のはVeldsparに10ISKと先ほどの詐欺広告と同等の好条件だが、場所指定がハイセクほぼ全域なので初心者なら誰しも恩恵を受けることができる。初心者の囲い込みが目的なのかもしれないが、良心的なJobも少なからずある。

これなんかは、90日以下の初心者を対象に50MISKまでシップロスに対して補償を出している。予算規模が少ないのですぐに枯渇しそうだが。昔の日本語チャンネルでは初心者がロスメールを貼ったら誰かが無言でISKを投げてたが、それをシステマチックにしたような感じである。今でも日本語チャットに初心者がロスメール貼ったらISKが飛んできそうな気がする。

以上は主にハイセクで流れているものを取り上げたが、ヌルセクでは少々状況が異なり、敵対勢力のキルに対して補助金を出すとか、危険なシステムでのADM上げのためのラッティングに補助金を出すとか、それなりに合理的な使われ方をしているようだ。ただ、基本的に身内に対して使わせるので誰もが請けられるFreelance Jobの仕組みとは微妙に噛み合わないようで、そのうちACL(Access Lists)を使って募集範囲を制限できる仕様とかが来そうな気もする。

ヌルセクでは敵対勢力の首に懸賞金を掛けるのが流行っているので、真似をしてCCPに懸賞金を掛けてみた。


作ってから1日でActive Participants 125人の結構な大規模Jobに成長した。参加者数を増やすのにはコツがあって、コープのオフィスから5J以内のシステムから宣伝が見える仕組みなので、商都とステージングシステムの近くにオフィスを借りて広告するだけ。発信元となるオフィスは20個まで指定できる。

PHだけステージングの近くにNPCのステーションがないのでこれは別にどうにかしなければならないが、適当なキャラをPHにぶち込んで定期的にチャットにリンクを貼ればそれで十分な気がする。

2025年5月8日木曜日

配信者を寄せ付けないEVEというゲーム

EVE Onlineは22年の歴史を持つMMORPGであり、一応は基本プレイ無料であり、日本語化もされている。しかしながら日本人で日常的にゲームプレイを実況配信しているような人間はほぼ存在せず、他から来た配信者も短期間プレイしては去っていくのを繰り返している。本稿では、この不毛の地が如何にして配信者を拒み続けてきたのか、その歴史と構造的な原因について論ずる。EVE Onlineに関心を抱いた配信者の一助となれば幸いである。

1.ネクソン『2ヵ月間EVE生活』

https://www.4gamer.net/games/004/G000412/20130611071/

EVEは22年の歴史を持つが、日本人コミュニティーの歴史はそれに比べるとやや短い。2012年にネクソンがCCP(EVEの運営会社)と契約し、日本国内で課金や基本的なサポートの提供を開始するまでは、ほとんど日本人プレイヤーは存在しなかった。キャラクター作成が2011年以前の日本人は古参中の古参である。ネクソンは日本国内でのサービスを提供するにあたって必要最低限度の宣伝広告を行った。その一つが『2ヵ月間EVE生活』企画である。女性配信者を雇い1か月間EVEをプレイさせてニコ動で配信させた。その結果は…なんというか過酷だった。

そもそもEVEは過剰に難解なゲームである。宇宙船に装備するモジュールだけでも数千種類のアイテムがあり、宇宙船の種類もLOLのチャンプを超える種類があり、古参プレイヤーでも全容を把握していない、どこまでが仕様でどこからがバグなのか分からない複雑でアドホックなゲームメカニズムがそれらを糾合している。ゲーム内での案内や説明は不十分であるため、外部サイトを読むかコミュニティーに属して分からないことを質問することで何か月も掛けて適応していくようなゲームである。初めて1か月の右も左も分からない初心者に生配信させるのは相当な無茶で、いわゆる初見プレイ配信にしかならないのは当然のことであった。

身を守る術を知らない初心者がカメラの前でプレイし、しかも若い女性である。つまりグリーフィングの対象になるのは明らかであり、そしてEVEには基本的にグリーフィングを規制するルールは存在しない。システム的にはゲーム内のどこでもプレイヤーが他のプレイヤーの船を攻撃することは可能である。生配信中であるから彼女の船がどこにいるのかは明らかで、初心者が乗れる船はそんなに硬くはならない。彼女は配信中に何度も繰り返し攻撃を受けて船を失い、初心者レベルの低難易度コンテンツさえプレイするのは困難であった。結果的にこの企画はEVEを治安の悪いMMOとして知らしめることになった。売り上げに貢献したかは謎だが、これ以降ネクソンが宣伝広告のために何かをするということはなく、2017年には契約を切ってネクソンは手を引いて日本語サポートもなくなってしまった。新規流入が途絶えた日本人コミュニティーは急激に縮小し、動画を作るような人もいなくなった。このようにして日本におけるゲーム配信ブームに完全に乗り遅れることになった。日本人がプレイしてないので配信しても仕方ない、配信者がプレイしないので新規が流入しないという構図である。

2.配信に向かないゲームシステム

2.1 全世界単一サーバー(中国大陸を除く)

とはいえ、海外でもEVEを実況配信している人は稀だ。EVEには00年代に登場した他のMMORPGとは決定的に違う点があり、それがEVEを唯一無二の存在にしている。EVEのサーバーはロンドンに1つだけあり、しかもシングルインスタンスである。ゲーム内のいかなる場所もユニークであり、仮に1000人のプレイヤーがあるゲーム内のある地点に向かうとそこには1000隻の船が浮かぶことになる。同時期に誕生したFF14等では複数のサーバーがあり、チャンネルがあり、同じ場所でも同じ場所ではないのが当たり前であるけれどEVEはそうではない。ゲーム内の経済システムが似てると言われているEscape from Tarkovもサーバーごとにマッチングが分かれている上に同じマップに沸いて戦うことになるのはマッチした十数人とだけだが、EVEでは理論上はサーバー全てのプレイヤーと同時に交戦可能である。この特徴ゆえに、配信者がゴースティングから逃れるのは極めて困難になっている。接続先のサーバーを隠すとか、InQのタイミングを隠す、などの対人ゲーム配信で行われているテクニックは通用しない。現在位置を秘匿するのも結構困難であり、画面上にモザイクを掛けたりしても完全に場所をごまかすのは無理であるし、そもそもゲーム内にロケーターエージェントという他のプレイヤーの位置を探るシステムが実装されている。

2.2 緩急が激しすぎるゲームデザイン

ゴースティングされなくとも問題はある。配信者が配信を行うのは視聴者が居るからであり、視聴者が訪れるのは見ていて配信が面白いからである。ここでEVEのプレイ体験はPvEでもPvPでも緩急の差が激しいのが問題となる。PvEだと2時間探検して大きな収穫が一回あれば上出来だし、PvPだと3時間這いずり回った挙句まともなファイトが1回10分間だけ、みたいなのがザラであり、退屈な部分が配信としてはあまりにも虚無すぎるためコメ欄とひたすら雑談し続ける羽目になる。これはこれでいい点があって、面白い部分だけ切り取って動画化するとEVEプレイヤーを対象に再生数を稼ぐことができる。ただ生で実況配信するのには絶望的に向かない。ゆっくり実況者ならまあアリかもしれないが、茶番劇の原稿を書くくらいなら完全に英語で動画を作った方がYTで再生数を稼げるという現実がある。

2.3 新参者に厳しいスキルシステム

では配信ではなく動画中心ならどうかというと、生きる化石のスキルシステムが立ちはだかる。EVEのスキルシステムはなかなか独特である。学習したいスキルのスキル本を購入し、学習対象に設定すると少しずつ習得が進む。ここでの学習の進捗は多少加速する手段があるとはいえ、基本的にリアル時間で何日も待たねばならない。10年前にスキル学習を加速するアイテム(スキルインジェクター)が導入されそれを買うと数万円で1年目の初心者レベルまで追いつくことができるようになった。ある程度の範囲の対人コンテンツに手を出すには数十万円分のスキルポイントを購入する必要があり、基本プレイ無料とはいえ課金が重めのスマホガチャゲー並みの初期投資が必要となる。案件でもなければこれほどの支出はなかなか勇気がいるだろう。特にTwitchに大勢いる実質ニートみたいな配信者には無茶である。エキスパートシステムという一時的にスキルを学習済みの状態にする課金アイテムがあるのでそれを使うという手も無くはないが…これでアクセス可能な範囲は初心者向けコンテンツに限られる。

3.それでも配信するつわもの達

EVEは配信者を寄せ付けない不毛の大地だが、配信や動画投稿をするEVEプレイヤーはそこそこ存在する。いくつか例を紹介しよう

3.1 戦場カメラマン

EVEは数千人が一カ所に集まるような大規模戦闘で有名なゲームであるが、そのような大規模な戦いは数日前からいつどこで発生するかが誰の目にも明らかな場合が多い。そのような戦闘が起こりそうなところにこっそり忍び込み、現場で透明化してその様子を生配信する配信者というのが一定数存在する。企画も編集もなく現地で放置しているだけで稼げる最強の配信である。

平時でもUedamaScoutのようにゲートキャンプの名所に張り込んで情報を提供している人もいる https://www.twitch.tv/uedamascout

3.2 モンタージュ投稿者

一昔前のFPSのように上手くいったキルクリップだけ寄せ集めてYoutubeに投稿している人たち。現在のEVEのコンテンツクリエイターの主流である。最初に何をやるかの説明が1分くらいあって、その後10分くらい音楽と一緒に1.5倍速くらいのプレイ動画をくっ付けた簡素な構成が主流。編集の巧拙よりも、どれだけ変なことをやっているかが再生数に影響する。例:Flower Fallen https://www.youtube.com/channel/UC52027svCwNuYe7rfiFuG1w

3.3 ワームホール探検家

EVE配信者の(ゲーム内の)現在位置を特定するのは割と簡単だが、そこに到達できるかどうかは別問題である。EVEの世界は恒星の周りを惑星が周回する星系をスターゲートで接続したネットワークで構成されている。通常の星系の他にスターゲートでは到達できない特殊な星系がいくつかあり、これらはランダムに発生するワームホールを伝って出入りする。これらの星系に入った状態から配信を開始すれば他の人間がそれを追いかけるのはほぼ不可能である。欠点としてはコンテンツの幅が著しく制限されるという問題がある

3.4 フィラメントロームPVP

EVE銀河は治安のましな方から順にハイセク>ローセク>ヌルセクと三段階に分かれていて場所によって使用不能な宇宙船やモジュールがあったり、適用されるルールが異なる。一番何でもありなのがヌルセクであり、EVE銀河の大半を占めている。プレイヤーの数ではそれほどヌルセクのプレイヤーは多くなく、大半のエリアがほとんど無人地帯となっていて他所者が侵入してもある程度自由に行動できる。このヌルセクのランダムな場所に移動することができるニードルジャックフィラメントというアイテムが存在し、商都ジタからこのアイテムで直接ヌルセクに入ってPVPして遊ぶというプレイスタイルが存在する。ゴースティングされたところで追いかけるのは困難なので生配信している人が一定数存在するものの、そもそもこのコンテンツ自体がかなりの上級者向けであり、EVEを始めたばかりの職業的配信者がやるにはあまり向いてない。(ゲームシステム的には誰でも可能だが)

3.5 出港しない配信者

そもそも出港しなければ船を落とされる心配はなく安全である。何をするのかは別問題。

4.専業配信者が成功する可能性はあるか

現在のEVEは大手のVなどが居ないブルーオーシャンではある。あまりにも栄養が無さ過ぎて青く透き通ってるだけだが。では個人の配信者が生き残る術はあるだろうか。恐らく無理ではないものの、そもそもEVEのプレイヤー数が少なすぎて普通にやっても金にならないというのが私の予想である。しかし現在のYoutubeにはそのゲームをプレイしない人に向けたゲーム動画というのはザラであり(のばまんゲームスとか)。もしかすると可能かもしれない。上手くいくとすれば次のようなものになるだろう

4.1 質問できるベテランプレイヤーを確保したうえで初心者向けガイド動画を作る

EVEの日本人コミュニティーは日本語サービス中止からの再日本語化という経緯もあり、ネクソン時代の古参と少数の新規プレイヤーという歪な人口ピラミッドを形成している。日本語サービスが無かった時代に始めた人は海外のコミュニティーに溶け込んでることが多い。初心者のための体系的なコンテンツは定期的に環境が変化することもあって常に未整備であり、作ろうとすれば協力してくれる人はいるだろう。(私はやらないが)また、初心者ガイド的なものを作るならCCPのコンテンツクリエイター支援プログラムを利用できるかもしれないhttps://www.eveonline.com/ja/partners 。何事もコミュニティに受け入れてもらわないことには始まらない。足掛かりとしては無難だ。

4.2 配信よりも動画作成

普通に配信しても退屈な時間が多いというのもあるが、EVEが最も活発な時間帯はEUと北米の夜=日本の深夜~午前中である。専業なら人とコンテンツが多い時間帯にプレイした方が動画素材集めの効率が良いだろう。何か変な企画を考えてコンテンツが多い時間に成功するまでやって素材を作ればいい。協力者集めには困るかもしれないが。

4.3 キルだけではなくデスもコンテンツにする

タルコフ配信者がやっているようなやつを想像してほしい。EVEは初心者にもベテランにも過酷な環境なので、大きな収穫や対人キルを主なコンテンツにするのはかなり難しい。リスキーな探検やPVPをやって時々成功して多くの場合理不尽にデスするだけでも上手く編集すればコンテンツになるポテンシャルはある。また動画だとデスの方がコメント稼ぎの効率が良い気がする。

5.最後に

もしあなたのところにEVE:Frontierの案件が来たとしたら受ける前によく考えた方がいい。この遅れてやってきた暗号資産ゲームは死産がほぼ確定していて、時間や資金を投じたところで回収できる見込みは薄い。